名古屋地方裁判所 昭和42年(ヨ)2063号 決定 1968年2月26日
申請人 A
<ほか一名>
右両名訴訟代理人弁護士 安藤嶽
被申請人 新日本法規出版株式会社
右代表者代表取締役 河合善次郎
右訴訟代理人弁護士 本山亨
右同 四橋善美
主文
本件申請を却下する。
申請費用は申請人らの負担とする。
理由
第一、申請人両名の求めた裁判
被申請人は申請人両名が別紙図面の矢印の経路に従い被申請人会社社屋の屋上へ立入ることを妨害してはならない。
一、申請人両名の主張
申請人Aは昭和三四年九月、申請人Bは昭和三九年四月、被申請人会社にその従業員として入社した。申請人らは昭和四〇年一二月ごろから、他の従業員数名と労働組合結成の準備をはじめ、昭和四一年五月には新日本法規出版労働組合準備委員会を結成し、申請人Aはその委員長申請人Bは組織委員となった。昭和四二年一〇月二二日組合員一二人で右労働組合が結成発足し、申請人Aはその執行委員長に、申請人Bは執行委員になった。翌一一月二二日右組合は被申請人に組合結成を通知した。
これに先立つ昭和四二年一〇月二三日、被申請人は申請人両名を懲戒解雇する旨の意思表示をした。その理由は申請人Bが被申請人社内にハリ紙をし、申請人Aが文書を所属課で回覧した、そのことが就業規則に反するとして始末書提出を被申請人が求めたのに、申請人らが応じなかったからと被申請人はするのであるが、実は被申請人は労働組合の結成をきらい、これを事前にうちこわそうとし、その一方法として組合結成の中心である申請人両名を解雇したものであり、前記解雇の意思表示は不当労働行為として無効である。従って、申請人らは被申請人従業員たる地位を失わず、従業員としての権利義務を有する。
右従業員としての権利義務を行使するため、申請人らは被申請人社屋内の従業員として立ち入ることのできる場所にはどこでも立入りうべきものである。
また、前記労働組合は、被申請人従業員を構成員として結成されたいわゆる企業内組合である。そのような労働組合ないしその組合員は憲法に保障された団結権、団体行動権に基き、被申請人企業内、社屋内で組合活動をする権利を被申請人に対して有する。
ところが、被申請人は前記解雇により申請人らは従業員たる地位を失ったとして、申請人らの被申請人社屋内への出入を認めない。また被申請人は右組合に会社内での組合事務所、集会場所の設置を認めようとしない。やむなく、組合は被申請人社屋の屋上で集会を開いているが、その使用は前記のように当然労働組合ないしその組合員に認められるべき権利である。
被申請人は申請人らの社屋ないしその屋上への出入を拒んでいる。それは、被申請人が成立后間もない労働組合を壊滅させるべく、その中心である申請人らをこれから分断し、他の組合員と接触させず、組合活動に参加させまいとしてのことである。これを放置していては、右労働組合ないし申請人両名に回復しえない重大な損害が生じる。
二、被申請人の申立
本件申請を却下する。
三、被申請人の主張
申請人両名に対する解雇は有効である。被申請人は申請人らに被申請人社屋の屋上を貸したことなく、申請人らがこれを使用する権利は全くない。
四、申請人ら提出の疎明≪省略≫
第二、当裁判所の判断
申請人らが被申請人従業員としての地位を保有すること、申請人らの主張のとおりであったとしても、申請人らがその従業員としての業務遂行上必要とされない被申請人社屋ないしその部分に立入り使用する権利を従業員として当然有するものとは解しがたい。申請人ら主張の社屋上がその業務遂行上必要なものとは申請人の主張するところではない。また、申請人ら所属の申請人ら主張の労働組合ないしその組合員が単にいわゆる企業内組合であるということから、当然に、被申請人の同意なく、被申請人社屋の屋上ないしその他の部分を使用する権利を有するとも解しがたい。被申請人が右の場所の使用を右組合ないし申請人ら組合員に許したとは申請人らの主張するところではない。
そうすると、本件仮処分申請は、その被保全権利についての疎明がないこととなり(保証を以てその疎明にかえることも適当と認められない)、認容すべくもないから、これを却下し、申請費用は申請人らの平等負担として、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 西川正世 裁判官 片山欽司 鬼頭史郎)
<以下省略>